1.精米(せいまい)
日本酒の主原料である米を、玄米の状態から削る(磨く)作業。
玄米の表層部に多く含まれるタンパク質や脂肪などは、多すぎると日本酒の味や香りに影響を与える雑味となるため、精米することでそれらの成分を減らします。
精米する割合を精米歩合(せいまいぶあい)といい、玄米の状態から30%削る場合は「精米歩合70%」となります。
精米歩合と原料によって、日本酒は以下のカテゴリーに分類されます。
2.洗米(せんまい)
※上記写真は、混気ジェットポンプ式洗米
精米した米を洗う作業。
この作業によって、米の表面に付着している糠や塵などを取り除きます。「第二の精米」とも言われるほど、細心の注意を払う工程です。
洗米方法は、人の手によるザル洗いや袋詰め洗い、機械装置による洗米など、酒蔵や製造する日本酒によってさまざまです。
3.浸漬(しんせき)
洗米後、米に水を一定時間吸わせる作業。
浸漬時間は、米の品種や年による作柄、精米歩合、目指す酒質などによって異なります。高度に精白した米は吸水のスピードが速いため、タイマーなどを使い秒単位で管理します。(限定吸水)
浸漬後は水切りを行います。し、翌日の「蒸し」に備えます。
4.蒸し(むし)
洗米・浸漬した米を蒸す作業。
蒸し時間は約1時間。
蒸し器には、伝統的な甑(こしき)や最新機械の連続蒸し米機などがあり、用いる材質にこだわる酒蔵もいます。
蒸し米は、麹(こうじ)、酒母(しゅぼ)、醪(もろみ)の仕込みに使われ、それぞれの用途に適した温度に冷まします。(放冷)
5.麹造り(こうじづくり)
米に含まれるでんぷん質を糖に変える麹(米麹)を造る作業。
麹室(こうじむろ)と呼ばれる室温約30度の高温多湿に保たれた空間で行なわれます。
作業としては、平らに広げた蒸し米に、種麹(麹菌の胞子、別名もやし)をふりか、均一に付着するよう手でほぐして、布に包み寝かせます。
そして、品温の調整をしながら2日寝かせることで、蒸し米に麹菌が繁殖し麹となります。
省力化と品質の一定した麹が得られるよう自動製麹機を導入している酒蔵もあります。
6.酒母造り(しゅぼづくり)
酒母は、糖をアルコールに変える「酵母」を培養し、大量に増殖させたものです。
このお酒の母は「酛(もと)」とも呼ばれ、文字通りお酒の元になる重要な部分です。
低温管理された培養室(酒母室)にて、前の工程で造った麹と水、酵母、蒸し米を加え混ぜ合わせることで酒母は造られます。
酒母を造る際、雑菌が繁殖しないよう乳酸を加えます。
乳酸をどのように加えるかによって、酒母は「速醸(そくじょう)系酒母」と「生酛(きもと)系酒母」に分かれます。
速醸系は純度の高い人工の醸造用乳酸を添加して造る酒母で、培養期間は約2週間。現在の日本酒のほとんどの酒母は、この速醸系で造られています。
生酛系は空気中に存在する乳酸菌を酒母の中に取り込んで乳酸を生成させるという、江戸時代に確立された伝統製法です。培養期間は約1ヶ月と速醸系より時間も手間もかかりますが、この生酛系にこだわる蔵が今増えています。
「山廃(やまはい)」は、生酛の工程を簡略化したもので、「生酛系酒母」の一種です。
7.醪造り(もろみづくり)
前の工程で造られた酒母に、麹、蒸し米、水を加えて醪を造る作業。
この作業は添仕込み、仲仕込み、留仕込みの3回に分けて行われ、日本酒独自の技法「三段仕込み」と呼ばれています。
なお添仕込みの翌日は、仕込みを一日休む「踊り」という休息期間を設け、酵母の増殖を促進させています。
8.発酵(はっこう)
留仕込みを終えた日を1日目とし、20~30日間かけて発酵が行われます。
この間、醪の中では麹による「糖化」と、酵母による「アルコール発酵」が同時に進行します。これは「並行複発酵(へいこうふくはっこう)」と呼ばれ、世界でも類を見ない高度な発酵技術です。
9.上槽(じょうそう)
発酵を終えた醪を搾り、酒と酒粕に分ける作業。
搾り方には、蛇腹状の機械で両側から圧力を加える「自動圧搾機(ヤブタ式)」、槽(ふね)と呼ばれる木枠に酒袋を積み重ねて上から徐々に圧力をかける「槽搾り(佐瀬式)」、酒袋を吊って自然の重力で滴り落ちる雫を斗瓶で集める「袋吊り(斗瓶取り、雫取り)」、高速回転による遠心力を利用する「遠心分離機」などがあります。
なお、搾る際に、圧力をかける前に自然に流れ出る最初の白濁部分を「あらばしり(荒走り)」、その後に少しずつ圧力をかけて出てくる中間部分を「中取り(中汲み)」、最後に圧力を強めにかけて搾り出す部分を「責め」と呼びます。あらばしりは香り華やかでフレッシュ感があり、中取りは香味バランスに優れ、責めは雑味が強くなります。
通常はこれらを全部混ぜて製品化しますが、なかには別々に瓶詰めし、それぞれの特徴を楽しんでもらおうとする商品もあります。
10.滓引き(おりびき)
搾ったお酒を一定時間静置し、お酒の中に含まれる浮遊物を沈澱させる作業。
沈殿した部分を「滓(おり)」といいます。
通常は、滓のない上澄み部分だけを製品化します。
11.濾過(ろか)
滓引きしても残る粕を取り除く作業。
濾過しないお酒は、「無濾過」と呼ばれます。
12.火入れ(ひいれ)
日本酒の品質を左右する最も重要な作業のひとつ。
火入れとは低温加熱殺菌のことを指します。これは日本酒内に残っている酵素の働きを止め、お酒の香りや味わいに異常をきたす菌を殺菌するためです。火入れをすることで長期間の保存が可能になります。
火入れの方法は、①従来の蛇菅(じゃかん)やプレートヒーター(熱交換器)を使った「熱酒瓶詰め」(火入れをしてから瓶詰めする方法)と、②湯煎による瓶燗や最新のパストライザーを使用した「瓶火入れ」(瓶詰めしてから火入れをする方法)があります。②の方がよりフレッシュな状態をキープすることができます。
従来は出荷されるまでに2回の火入れを行うことが一般的でしたが、最近は火入れ技術の向上、輸送技術の発達、冷蔵管理の徹底などによって、よりお酒へのダメージが少ない1回火入れを選択する蔵が増えてきました。火入れを1回もしないお酒は、「生酒」と呼ばれます。
13.瓶詰め(びんづめ)
お酒を1本1本瓶に入れる作業。
瓶詰め方法は、機械の場合と手作業の場合があります。
瓶火入れの場合は、この作業の後に火入れを行います。
瓶詰めされたお酒は低温で貯蔵され(瓶貯蔵)、飲み頃を迎えて出荷されます。